サインに適した筆記具を考える。
2010年 11月 21日
などと考えている人はまずいないだろう。
わー明日作家の@@@@のサイン会やん!どんなペン用意したらえんかな?
などと心配する書店員もまたいるとは思えない。
理由は簡単。
誰もそこまで考えていないからである。
関心がないといってもいい。
ところが残念なことに小生は常にそこしか考えられない人間なのだった。
というわけで、おそらくニーズ0にもかかわらず、サインに適した筆記具について少し考えてみたい。
とはいえ、話はそう非現実的でも、役に立たない訳でもない。
原則は「適ペン適所」。
ちなみにこれは、先日取り上げた雑誌「すごい文房具」(KKベストセラーズ)でも同様の表現がされており(P.88のきだてたく氏のコメント)、やはり基本的な概念であるようだ。
さて、「適ペン適所」を考えるとき、まず押さえておきたいのは以下の3点。
どんな筆記具でどれくらいの大きさの文字をどんなものに書くのか。
文房具屋の店頭での接客でも、まずこの3点を中心に聞くようにしている小生。
例えば「油性ペン」と言って探しに来られる人も、封筒に宛名を書くレベルなら、耐水性のある水性ペンのほうがかえってにじまずにきれいに書けたりする。
さらにつっこんでいくと、その人の書き癖とか、その筆記具への慣れ、といった要素も出て来るが、まずは「筆記具」「字の大きさ」「書く対象」。
サイン会の場合、字の大きさはかなり大きめ、書く対象は本の表紙をめくった見返しの部分とだいたい決まっているので、あとはサインする本の見返しの色や紙質を見るだけでだいたい筆記具を決定することができる。
というわけで実際にサイン本を見ながら検証していきましょう。
こちらは川上弘美さんの『龍宮』 (文藝春秋)。
同氏の大ファンで、京都まで行って参加したサイン会。

これは紙の色が濃いこともあり、おそらく三菱の極細ポスカの銀色を使用している様子。
ペイントマーカーの銀色か、とも思ったが、筆記線があまりに細いので。
サイン会というのは、サインに入れてもらう名前や作家へのメッセージを事前に紙に記入させられることが多いが、このときもそうだった。
そして小さな紙にみちみちと熱いメッセージを書き込んだその紙を見た川上弘美さんの言葉。
「すごい…」
字しかすごくないこと(字とてすごくないこと)を知っている小生はまさに顔が燃えてしまうくらい恥ずかしく、なのになんやかや喋り…
あの頃は若かった…(´_ゝ`)
次はこちら。
松尾スズキの『撮られた暁の女 松活妄想撮影所』(扶桑社)。

これはずばりZEBRAのハイマッキーの細字です。
筆記線は一見サインペン風だが、かなり厚みのある見返しの紙の裏にインクが抜けている。
このサイン会の思い出といえば…それはもう松尾スズキ氏とハグしたことにつきる。
今この本からピラリと出てきたチラシによれば、「おみくじひいてサイン以外もあげちゃう方向で!」という企画だったらしく、
大吉→アナタに芸名を進呈
中吉→アナタの似顔絵を速筆
小吉→特製缶バッジ
…他びっくり特典を予定
とあるのだが、小生が引き当てたのは「微吉」。
なんだなんだと思っているうちに「微吉」が松尾氏とのハグと分かり…
店長、版元、その他大勢のギャラリーが見つめる中、ハグ…
(´_ゝ`)
さて、次はこちら。
サバンナ・八木真澄の『ぼくの怪獣大百科』(扶桑社)。
相方の高橋のサインも。

これはZEBRAのマッキー。
やはり裏に相当インクが抜けているのと、この字の大きさはハイマッキーでは無理。
もっとも、松尾スズキのもサバンナ・八木のも、本当にZEBRAなんだな?三菱のピースじゃないんだな?と言われると、そこまではさすがに鑑識じゃないので分からないが、まあ知名度から言ってまずマッキー周辺を調達しそうなものである。
このサイン会は、働いていた書店を辞めた直後にその書店で長蛇の列に並んでまで参加したサイン会で…
それはもう小生にとっては例外中の例外。
卒業した学校や辞めた職場にはいっさい近づかないことを信条にしている小生にもかかわらずだ。
それはもう、八木とこの本を心からリスペクトしていたからに他ならない。
今でも開くたびに笑いが止まらない天才的な一冊。
この本は内容はもちろん、文房具マニアとしても十分楽しめる刺激的な一冊になっている点が興味深い。
というのもこの本は、八木がノートに描きためた妄想の怪獣をそのまま本にしたもので、絵はもちろん、文字も八木の直筆のまま。
つまり、使った筆記具が手に取るようにわかるという、魅惑の代物なのだ。
ノートの方は確か、コクヨのキャンパスノート的なものだったはずだが(番組で一瞬紹介されたときに見たきりなので定かではないが)、文房具刑事の予想では、筆記具はおそらくぺんてるのサインペン。
印刷物になってしまっているのでインクのことまでは分からないが、線がにじんでない点と、ハケ化して描線がどんどん太くなっている点に注目。
もちろんハケ化するサインペンはぺんてるのものだけではないので、あるいはZEBRAのエリートケアあたりかもしれない。
が、水性のサインペンで、かつハケ化するサインペンであることは確実だろう。
細かいなあ…これだからマニアは…と苦笑するのはちょっと早い。
なぜなら、この楽しみ方はあながち本書の楽しみ方から脱線しているわけではないからである。
というのも、本書は八木の直筆の怪獣のイラストとその説明に、相方の高橋がツッコミを入れる形で構成されており、その高橋が八木の筆記具に言及している場面があるのだ。
途中、確かに一瞬ペンが細いものに替わったシーンがあり、「ペンの線が細い!」と高橋がつっこんでいる。
なかなか微笑ましい。
そしてそれがまた元に戻ると「ペンがようやく戻りました」と。
直筆を本にする試みは楽しいなあ。
おそらく、ペンが細くなったところはボールペンで書いたのだろう。
筆記線が細いとこうまでひょろひょろになるかというのが一目で分かる。
これはさすがにペンの種類までは分からないが、油性ボールペンではないのは確か。
水性かゲル。
さらにマニア的に見ていくと、サインペンぽいページの中にも、この文字だけハイマッキーで書いた?というぶっとい字もあらわれたりして、なかなか興味深いがこのくらいにしておこう。
最後はこちら。
姜尚中の『リーダーは半歩前を歩け──金大中というヒント』(集英社新書)。

これは最近だったこともあり、その頃にはすっかり刑事化していたので、ばっちり見ておりました。
ずばりぺんてるのサインペン。
新書の場合は見返しもぺらぺらの普通の紙なので、水性のサインペン以外は苦しい。
このサイン会の思い出は…長すぎ&興奮しすぎるのでこちらを参照ということで。
こうして見ていくと、サイン会に用意すべき筆記具はサインペン、マーカーのたぐい。
よほど見返しが薄い紙でない限り、一番適用範囲が広いのはZEBRAのマッキー・ハイマッキーあたりだが、濃い色のついた見返しの場合はポスカがきれいに映えるだろう。
書く紙が特につるつるでない限り、ぺんてるのサインペンだって王道だ。
さて。
長々と書いてしまったが、最後の最後に一つ。
PILOTのHPにあるTV-CMのコーナーの「アクロボール”サイン”篇」について。
あれ、サイン会なのに、用意してある筆記具がアクロボールなんて変だ。
店頭であのビデオが流れているときから不自然だな不自然だなと思っていたが、こうしてサイン本を検証してみると、あらためて変だ。
確かにあのリュックの青年が差し出したのは大学ノートだが(なんでまたあんなん出すん…)、そしてたまたまそれはボールペンとは好相性なノートだったが、普通サイン会にボールペンは使わないのでは…
ハッツ。
もしかして相武紗季が筆記具マニアという設定!?
持って来られるものによって筆記具を使い分けるみたいな!?
本だったらちゃんとマッキーやサインペンでしますよ的な!?
設定細かっ&まぶしっ。
たぶん違いますよね…(´_ゝ`)
そしてあのかわいい相武紗季をもってしてもブレイクし損ねたアクロボールって…

はじめまして。
ようこそ無罫フォントへ。
まさか本当にサイン会用にペンを探している人がたどり着くとは…
真面目に書いてよかったです(汗)。
CDジャケットで速乾なら油性のマーカーになるでしょうね。
三菱やPILOTのペイントマーカーが間違いないのではと思います。
セントロペン!
おもしろそうですね!


(私がサインするのではないですが…)
と検索したら、こちらのページを見つけました。
ちょっと情報をいただこう。
そんな情報泥棒の気持ちで読み始めたら
最後までしっかり楽しんでしまいました。
とても参考になりました。
用意する紙に合わせて色々なペンを試したいと思います。
ありがとうございました!!